18. それは神風だったのか?
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文化財爆撃除外説は全くの幻であったことが判ったが、それでは姫路城が戦禍を免れた
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理由はどう説明すればよいのだろうか。それを解く手掛かりとしてB29が爆弾を投下する
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際に、爆撃精度へ影響を与える要因について検討していこう。
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マリアナ基地から発進したB29は、基地から硫黄島まであるいは硫黄島から日本本土ま
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での長距離を、星の位置から飛行経路を割り出す天測航法や三つの地点から発信された電
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波の到着時間差を測定して機体の位置を知るロラン航法に従って飛行していった。
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日本本土上空へ到達したB29が次にとった航法は、地文(ちもん)航法と呼ばれるもの
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である。この航法は地形情報に基づいて飛行する最も初歩的な航法で、地形の確認にはレ
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ーダーが使用された。多くの場合、島や半島の先端部など、水陸の対比がくっきりと判る
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地点が位置確認地点として用いられた。
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ひとつの位置確認地点から次の位置確認地点までは飛行速度、飛行時間、コンパスによ
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って得られた情報からの推測による飛行を続けることになる。推測航法による飛行では航
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路のズレは不可避だった。
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B29の航路ズレが発生する最大の要因は、機体が受ける横風であった。ズレは偏流(dri-
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ft)で表される。偏流とは、予定していた航路と風の影響を受けてズレた実際の航路とがな
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す角度のことを言う。
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姫路市街地を空襲した第313航空団のB29の平均偏流(average drift)は、6°rightで
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あったと報告されている。この場合、ある一定の距離を移動するうちに移動距離の約10%
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に相当するズレが生じたことを意味する。わかりやすく言うと、B29が1km 進む間に風の
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影響により本来の航路から右方向へおよそ100m流されるということになる。これは、単
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なる例として挙げただけで、航路のズレは、機体が受ける風の強さや風向、位置確認地点
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間相互の距離によって様々に変化することは言うまでもない。
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空襲当夜、第313航空団が受けた偏流の原因は、B29が飛行する高度10,100〜11,500
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フィート付近で吹いていた風向310°、風力26ノットの風であった。攻撃軸角度38°で
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姫路へ接近するB29にとって310°の方角と言えばほとんど真横からの風を受けて飛行し
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ていたことになる。
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第313航空団は、瀬戸内海の島々を利用して航路修正を行いながら姫路へ接近していっ
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た。最後の位置確認地点が何処であったかはT.M.R.には記載されていないが、陸上を飛行
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することになる直前の海岸部の可能性が高い。陸地で位置確認地点を設定するには無理が
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ある。姫路の場合、海岸線から市街地までの距離はおよそ6〜7kmであるから、B29がち
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ょうど爆撃態勢に入る頃になる。これ以後、M.P.I.までは等速直線飛行が不可欠であった
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ため、航路の修正はされなかったし、またその時間的余裕もなかった。B29にとっては、
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6〜7kmなどあっという間に飛んでいってしまう距離である。当然M.P.I.までたどり着くに
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は推測航法に頼らざるを得ないことになる。
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B29が目標を攻撃する際、弾道の安定している通常爆弾を使わずに、集束焼夷弾(E46)
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や単体の焼夷弾(M47A2)によって限定目標への爆撃を実行するという戦術は成り立つので
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あろうか?つまり、ここで言いたいことは、姫路市街地空襲に於いて、街を焼き尽くす一
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方で姫路城だけを意識的に残しておくということが可能だったのかどうかということであ
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る。
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この問題を考えるにあたっては、ごく短期間ではあったが、アメリカが行った次のよう
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な戦術的実験が参考になるだろう。焼夷空襲の目標地域の外にある、本来ならば昼間精密
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爆撃によって攻撃されるべき目標に対して夜間空襲が行われたことがあった。レーダーを
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使って目標に接近し、照明弾を投下して目標を照らし出すことで目視爆撃法による高性能
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爆弾(通常爆弾)攻撃を実施するという計画であった。三晩連続して計5回の爆撃が行わ
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れた結果、B29はレーダーによって目標上空へ侵入することは出来たものの、使用した照
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明弾の照度不足のためにノルデン照準器を通して目標を捉えられずに終わった。
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この計画を成功させるためには、充分な照度を提供する目標識別用爆弾と反射投影式爆
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撃照準器が必要とされた。これら2つの装備は戦争終結までに準備が間に合わなかったた
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め、この計画は二度と採用されることはなかった。
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これから判るように、目標を限定して爆撃する時は、目視爆撃法による通常爆弾投下で
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あり、焼夷弾を使うことはなかったのである。現在のように誘導や追尾と言った技術がな
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かった時代には自由落下式の爆弾を使うしか他に道はなかった。それ故、目標を限定する
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という条件を満たすためには弾道の安定した大型通常爆弾を周囲が明るいうちに目視によ
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って投下することが最も理にかなっていた。
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